に、急ぎ足で立ち去った。
 入れかわりに、廊下をパタパタ草履《ぞうり》を鳴らしながら、警視庁の大江山《おおえやま》捜査課長と帆村《ほむら》探偵とが、肩を並べながら歩いて来た。
「……だから、こいつはどうしても犯罪だと思うのですよ、課長さん」
「そういう考えも、悪いとは云わない。しかし考えすぎとりゃせんかナ」
「それは先刻《さっき》から何度も云っていますとおり、私の自信から来ているのです。なにしろ、病人の出た場所を順序だてて調べてごらんなさい。それが普通の伝染病か、そうでないかということが、すぐ解《わか》りますよ。普通の伝染病なら、あんな風に、一つ町内に出ると、あとはもう出ないということはありません」
「しかし伝染地区が拡がってゆくところは、伝染病の特性がよく出ていると思う」
「伝染病であることは勿論《もちろん》ですが、ただ普通じゃないというところが面白いのですよ」
 二人の論争が、そこでハタと停った。彼の歩調も緩《ゆる》んだ。丁度《ちょうど》二人が目的の部屋の前に来たからである。黒い漆《うるし》をぬった札の表には、白墨《はくぼく》で「病理室」と書いてあった。
 ノックをして、二人は部屋
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