。それは翅が無いのではなく、翅が非常に速い振動をしていたからである。その翅の特異な振動から、殺人音波が室内にふりまかれているのであった。白軍の新兵器、殺人音波は、実にこの蠅から放射されていたのである。
 蠅は死にそうでいて、中々元気であった。人間が死んで、蠅が死なないのはおかしいが、もし手にとって、顕微鏡を持つまでもなく肉眼でよく見るならば、この蠅が唯《ただ》の蠅ではなく、ロボット蠅《ばえ》であることを発見したであろう。
 この精巧なロボット蠅は、弁当屋の小僧が持って来て、壁にとりつけていったものだった。蠅が止まっていると格別気にもしなかった間にあの小僧に化けたスパイは遠くに逃げ失せた。その頃、一つの電波が白軍の陣営から送られ、それであのロボット蠅の翅は忽《たちま》ち振動を始めたのだ。その翅からは戦慄《せんりつ》すべき殺人音波が発射され、室内の一同を鏖殺《みなごろ》しというわけだった。軍団長のいうとおり、もっと早く蠅を手にとって検べていたら、こんな悲惨な結果にはならなかったろう。
 ロボット蠅は、それから後も、続々《ぞくぞく》と偉功《いこう》を樹《た》てた。


   第六話 雨の日の
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