た》たないが、人間は恐ろしい生物だ、はや人造《じんぞう》宇宙線というものを作ることに成功した。あのX光線でさえ一ミリの鉛板《えんばん》を貫《つらぬ》きかねるのに、人造宇宙線は三十センチの鉛板も楽に貫く。だから鉄の扉《ドア》やコンクリートの厚い壁を貫くことなんか何でもない。人間の身体なんかお茶の子サイサイである。
どこから飛んでくるか判らない宇宙線は、その強烈な力を発揮して、人間の知らぬ大昔から、人体を絶え間なくプスリプスリと刺《さ》し貫いているのだ。或るものは、心臓の真中を刺し貫いてゆく。また或るものは卵巣《らんそう》の中を刺し透し、或るものはまた、精虫《せいちゅう》の頭を掠《かす》めてゆく。こう言っている間も、私たちの全身は夥《おびただ》しい宇宙線でもってプスリプスリと縫われているのだ。
一体、そんなにプスリと縫われていて差支《さしつか》えないものか。差支えないとは云えない、たとえば、精虫が卵子といま結合しようというときに、突然数万の宇宙線に刺し透《とお》されたとしたらどうであろう。お盆《ぼん》のように丸くなるべきだった顔が、俄然《がぜん》馬のように長い顔に歪《ゆが》められはしま
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