という写真であった。その猛犬を追跡自動車が追うと、自動車が反《かえ》ってガタンと街路にひっくりかえる。ピストルを打てば、弾丸が撃った者の方へ跳ねかえってくる。袋小路へ大勢の市民が追いつめて、いよいよ捕えるかしらと思っていると、ああら不思議、猛犬の四肢が梯子《はしご》のようにスルスルと伸び、猛犬の背がビルディングの五階に届く。そして寝坊のお内儀らしい女が、窓を明ける拍子に猛犬は女を押したおしてそこから窓の中へ飛びこむ。最後にこの「人造犬」の発明者が現われて犬の尻尾を棍棒でぶんなぐると、犬を動かしていた電気のスイッチが開き、猛犬は仰向けにゴロンと引繰りかえり、身体のなかからゼンマイや電池や電線がポンポン飛び出す――という大活劇であった。
 帆村はその活動写真がたいへん気に入って、二度も三度も一銭銅貨を抛《な》げて、同じものを繰返し見物した。この「人造犬」というのは、彼が子供のときに見た記憶がなかった。その後、新しく輸入されて陳列されたものであろうが、実に面白い。
 帆村は続いて、他の一銭活動写真の方に移っていった。
 帆村が何台目かの一銭活動を覗きこんでいるときのことだった。すこし離れたと
前へ 次へ
全254ページ中93ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング