ころに於て、なにかガタンガタンという騒々しい音をだした者がある。折角の楽しい気分を削ぐ憎い奴だと思って、帆村は活動函から顔をあげてその方を見た。
 音を立てているのは、腕に青い遊戯室係りの巾《きれ》を捲いた男だった。彼は活動函をしきりに解体しているのであった。その傍には、それを熱心に見守っている二人の男女があった。
 女の方は洋髪に結った年の頃二十三、四歳の丸顔の和装をした美人だった。その顔立は、たしかに何処かで最近見たような気がするのであった。男の方は――と、帆村は眼をそっちへ移した瞬間、彼はもうすこしで声を出すところだった。それは余人ではなく、玉屋総一郎の殺人事件のあった夜、玉屋邸に於てしきりに活躍していた医師池谷与之助に外ならなかった。
 池谷医師といえば、帆村が玉屋邸に赴く前に、正木署長から、邸内に現われた怪しき男として電話によって逸早く報道された人物だった。
 しかし彼の住居は、この土地宝塚であるということだったから、今この新温泉に居たとて別に不思議はない筈だった。
 でも彼は、こんな室内遊戯室に、何の用があって訪れたのだろうか。


   尾行


 帆村が数間先に立ってい
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