。まあ、これに違いないやろ思いまっさ。ひとつ覗《のぞ》いてごらん」
帆村は、消防手のたすけを借りて、望遠鏡越しにその岸姫町の方をじっと眺めてみた。
「――な、見えますやろ。どえらい不細工《ぶさいく》な倉庫か病院かというような灰色の建物が見えまっしゃろ」
「ああ、これだな」
「見えましたやろ。そしたら、その屋根の上から突き出しとる幅の広い煙突《えんとつ》をごらん。なんやしらん、セメンが一部|剥《は》がれて、赤煉瓦《あかれんが》が出てるようだすな」
「ウン、見える見える」
「見えてでしたら、その煙突の上をごらん。煙が薄く出ていまっしゃろ、茶色の煙が……」
「おお出ている出ている、茶色の煙がねえ」
帆村は、腕がしびれるほど、望遠鏡をもちあげて、破れ煙突から出る煙をジッと見守っていた。
あの煙突から、昨夜の十時から今朝までも、あのとおり煙が出っ放しなんだろうか? そしてあの煙突の下に、果して臭気の原因があるのだろうか?
「あの建物は、なんですかねえ」
「さあ詳しいことは知りまへんけど、この辺の人は、あれを『奇人館』というてます。あの家には、年齢《とし》のハッキリせん男が一人住んでいるそう
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