くるのでしょう」
「さあ?」
と、消防手は首をかしげて、帆村の顔を見守るばかりだった。彼はどうやら、帆村の職業をそれと察したらしかった。
「風は昨夜から、どんな風に変りましたか」
「ああ風だすか。風は、そうですなア、今も昨夜も、ちっとも変ってえしまへん。北西の風だす」
消防手だけに、風向きをよく知っている。
「北西というと、こっちになりますね。どうです、消防手さん。こっちの方向に、なにかこう煙の上っているようなところは見えないでしょうか」
帆村の指す方角に、人のいい消防手はチラリと目をやったが、
「さよですなア、ちょっと見てみまひょう」
といって、首にかけていた望遠鏡を慣れた手つきで取出すと、長く伸ばして、一方の眼におしあてた。
「いかがです。なにか見えるでしょう」
「さあ――ちょっと待っとくなはれ」
と、彼は望遠鏡をしきりに伸《の》ばしたり縮《ちぢ》めたりしていたが、そのうちに、
「――ああ、あれかもしれへん」
と、頓狂《とんきょう》な声を出した。
「ええッ、ありましたか」
帆村は思わず、消防手の肩に手をかけた。
「三町ほど向うだす。岸姫《きしひめ》町というところだすな
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