らしくカラリと晴れあがり、そして暖くてまるで春のようであった。冬の最中とはいえ真青に常緑樹の繁った山々、それから磧《かわら》の白い砂、ぬくぬくとした日ざし――帆村はすっかりいい気持になって、ブラブラと橋の上を歩いていった。これが兇悪「蠅男」の跳梁《ちょうりょう》する大阪市と程遠からぬ地続きなのであろうかと、分りきったことがたいへん不思議に思われて仕方がなかった。
新温泉の桃色に塗られた高い甍《いらか》が、明るく陽に照らされている。彼は子供の時分よく、書生に連れられて、この新温泉に来たものであった。彼はそこの遊戯場にあったさまざまな珍らしいカラクリや室内遊戯に、たまらない魅力を感じたものであった。彼の父はこの温泉の経営している電鉄会社の顧問だったので、彼は一度来て味をしめると、そののちは母にねだって書生を伴に、毎日のように遊びに来たものである。しかし書生はカラクリや室内遊戯をあまり好まず、坊ちゃん、そんなに遊戯に夢中になっていると身体が疲れますよ、そうすると僕が叱られますから向うへ行って休憩しましょうと、厭《いや》がる荘六の手をとって座席の上に坐らせたものだ。
その座席は少女歌劇の舞
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