と上原君の泥靴の青い色からして、二人が今朝そこの泥濘《ぬかるみ》を歩いたに違いないという推理を立てたのです」
「な、な、なるほど、なるほど、さよか。特殊も特殊、まるで軽業《かるわざ》のような推理だすな」
「全くそのとおりです。運よく、特殊事情をうまく捉えただけのことです。しかしこれは笑いごとじゃないのです。あなたがたは官権というもので捜査なさるからたいへん楽ですが、われわれ私立探偵となると、表からも乗り込めず、万事小さくなって、貧弱な材料に頼って探偵をしなきゃならない辛さがあるんです。そこであなたがたよりは、小さいことも気にしなきゃならんのです。目につくものなら、何なりと逃《の》がさんというのが、私立探偵の生命線なんでして――」
「もう止せ、帆村君。手品の種明かしの後でながなが演説までされちゃ、折角《せっかく》保護している玉屋総一郎氏が蠅男の餌食になってしまうよ。そうなれば、今度は、こっちの生命線の問題だて」
そういって村松検事は、時計を見ながら、帆村の肩を指で突いた。
しかし、警官は、何に感心したものか、いつまでも、「なるほどなアなるほどなア」と独《ひと》り言《ごと》をいいながら
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