も泥が乾いているのに赤土らしくならないで、非常に青味がかっていましょう。染めたように真青です。だから、どっちも同質の土です。二人は同じ場所を歩いたと考えていいでしょう」
「へえーッ、さよか。そんなに青い泥がついとりましたか、気がつきまへなんだ。それはええとして、最後に、家が板橋区のどこやらとズバリと云うてだしたのは、これはまたどういう訳だんネ。令嬢を前から知っとってだすのか」
「いえ、さっきこの家で始めて会ったばかりです。だがチャンと分るのです。あのような青いインキで染めたような泥は、板橋区の長崎町の外《ほか》にないんです。もっと愕かすつもりなら、通った通りの丁目まで云いあてられるんですよ」
「へえ、驚きましたな。しかしまた、あんな青い泥がその長崎町だけにあって、外の土地には無いというのは、ちと特殊すぎますな。長崎町にあったら、その隣り町にもありまっしゃろ。そもそも地質ちゅうもんは――」
「ああ、あなたの地質の造詣《ぞうけい》の深いのには敬意を表しますが――」
「あれ、まだ地質学について何も喋っていまへんがナ」
「いや喋らんでも僕にはよく分っています。それにこの問題は地質学の力を借りん
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