念入りに附着しませんよ。今年は十一月からずっと寒い。東京は何度も雪が降った。それだのに昨日は雨が降ったというのですから、これは暖かったに違いないでしょう」
「はあ、そういうところから分りよったんやな、なるほど種は種やが、鋭い観察だすな。それはそれでええとして、青年の方が令嬢を朝早く迎えに行ったいうんは?」
「それは、上原君の靴だけではなく、カオルさんの靴にも同等程度の泥がついていたからです。つまり二人は同じ程度の泥濘《ぬかるみ》を歩いたことになります。それから燕号は、東京駅を午前九時に発車するのですから、朝早く迎えに行ったんでしょう」
「そうなりまっか。ちょっと腑に落ちまへんな。もし二人が駅で待合わしたんやってもよろしいやないか。そして、令嬢も上原も郊外に住んで居ったら、靴の泥も、同じように附着しよりますがな」
帆村は、ここだという風に大きく肯き、
「ところがですネ、もっと大事な観察があるのです。二人の靴についている泥が、どっちも同質なんです」
「同質の泥というと――貴下《あんた》さんは、地質にも明るいのやな」
「ナニそれほどでもないが、二人の靴の泥を後でよく見てごらんなさい、どっち
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