くと面映《おもは》ゆげにニッと笑い、
「あああれですか。あれは透視術でもなんでもないのですよ。聞くだけ、貴下が腹を立てるようなものだけれど――」
「ナニ帆村荘六の透視術?」と早耳の検事はその言葉を聞き咎めて、「――おい君、善良な警官を悪くしちゃ困るよ」
「いや話を聞いておくだけなら、悪かなりませんよ」と帆村は弁解して、「――もちろん種があるんです。これは有名なシャーロック・ホームズ探偵がときに用いたと同じような手なんです。――さっき青年上原君に燐寸を借りたでしょう。あの燐寸は、燕号の食堂で出している燐寸です。まだ一ぱい軸木がつまっていました。夜には大阪着ですから、ここへ二人が現われた時間が十時頃で、燕号で来たことは皆ピッタリ符合します。なんでもないことですよ」
「ははア燐寸と鉄道時間表の常識とが種だっか」と警官は大真面目に感心して、「すると東京が暖いとか、雨が降っていたというのは――」
「あれは、上原君なんかの靴を見たんです。かなりに泥にまみれていました。ご承知のように、わが大阪は上天気です。しからば、あの靴の泥は東京で附着したのに違いないでしょう。それも雨です。もし雪だったら、ああは
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