したから、一つ着かえますかな」
そういって帆村は、そこに張り番をしていた警官に会釈すると、警官は椅子の上に置いてあった風呂敷包みをとって差出した。風呂敷を解くと、宿屋に残してあった洋服がそっくり入っていた。
「呆《あき》れたものだ。早く着換えとけばいいのに――」
「そうはゆきませんよ。事件の方が大切ですからネ。洋服なんか、必ず着換える時機が来るものですよ」
そういいながら、帆村は借りていた警官のオーバーを脱ぎ、病院の白い病衣を脱ぎすてた。
警官は帆村のために、襯衣《シャツ》やズボンをとってやりながら、検事には遠慮がちに、帆村に話しかけた。
「――もし帆村はん。ちょっと勉強になりますさかい、教えていただけませんか」
「ええ、何のことです」
「そら、さっきの二人に帆村はんが云やはりましたやろ、東京は暖いとか、雨が降っていたやろとか、燕で来たやろ、娘はんの家は板橋区の何処やろとかナ。二人とも、顔が青なってしもうて、えろう吃驚《びっくり》しとりましたナ、痛快でやしたなア。あの透視術を教えとくんなはれ、勉強になりますさかい」
藍甕転覆《あいがめてんぷく》事件
帆村はそれを聞
前へ
次へ
全254ページ中59ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング