出ているに違いない!)
臭気の源《みなもと》は案外近いところにある。もしそれが遠いところにあるものなれば、臭気は十分ひろがっていて、どこで嗅いでも同じ程度の臭気しかしない筈だった。だから彼は、この場合、臭気の源を程近い所と推定したのだった。
では近いとすれば、このような臭気を一体何処から出しているのだろう?
帆村は再び踵《きびす》をかえして、臭気が一番ひどく感ぜられた地区の方へ歩いていった。それは丁度或る町角になっていた。彼はそこに突立ったまま、しばらく四囲《あたり》を見まわしていたが、やがてポンと手をうった。
「――おお、あすこにいいものがあった。あれだ、あれだ」
そういった帆村の両眼は、人家の屋根の上をつきぬいてニョッキリ聳《そび》えたっている一つの消防派出所の大櫓《おおやぐら》にピンづけになっていた。
あの半鐘櫓《はんしょうやぐら》は、そもいかなる秘密を語ろうとはする?
灰色の奇人館
「オーイ君、なにか臭くはないかア」
と、帆村は櫓の下から、上を向いて叫んだ。
上では、丹前に宿屋の帯をしめた若い男が、櫓下でなにか喚《わめ》きたてているのに気がついた。と
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