イナ。こないな妙な臭《かざ》は、今朝が初めてだす」
「そうかい。――で、この辺から一番近い火葬場は何処で、何町ぐらいあるネ」
「さあ、焼場で一番ちかいところ云うたら――天草《あまくさ》だすな。ここから西南に当ってまっしゃろな、道のりは小一里ありますな」
「ウム小一里、あまくさ[#「あまくさ」に傍点]ですか」
「これ、天草の焼場の臭いでっしゃろか」
「さあ、そいつはどうも何ともいえないネ」
帆村は「行っておいでやす」の声に送られて、ブラリと外に出た。別に彼は、この朝の臭気を嗅いで、それを事件と直覚したわけでもなく、またこんな旅先で彼の仕事とも関係のないことを細かくほじくる気もなかった。けれど、彼の全身にみなぎっている真実を求める心は、主人公の気づかぬ間に、いつしか彼を散歩と称して、臭気《しゅうき》漂《ただよ》う真只中《まっただなか》に押しやっていたのだった。
それは一種|香《かん》ばしいような、そして官能的なところもある悪臭だった。彼は歩いているうちに、臭気がたいへん濃く沈澱《ちんでん》している地区と、そうでなく臭気の淡い地区とがあるのを発見した。
(これは案外、近いところから臭気が
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