ヤニヤしながらカオルの様子を眺めていた。部下の一人が近づいてソッと署長に耳うちをしていった。村松検事が間もなく到着するという電話があったことを返事したのであった。
「――娘さん。鴨下ドクトルから、二、三日うちに当地へ来いという手紙が来たという話やが、それは何日の日附《ひづけ》やったか、覚えているか」
「覚えていますとも。それは十一月二十九日の日附です」
「へえ、二十九日か」署長は首をかしげ「そらおかしい。ドクトルは三十日に、当分旅行をするという札を玄関にかけて、この邸を留守にしたんや。旅行の前日の手紙で、二、三日うちに大阪へ来いといって置いて、その翌日に旅行に出るちゅうのは、怪《け》ったいなことやないか。そんな手紙貰うたなどと、お前はさっきから嘘をついているのやろう」
「まあひどい方。わたしが嘘を云ったなどと――」
「そんなら、なんで手紙を持って来なんだんや。この邸へ入りこもうと思うて、警官に見つかり、ドクトルの娘でございますなどと嘘をついて本官等をたぶらかそうと思うたのやろが、どうや、図星《すぼし》やろ、恐れいったか。――」
 女は身を慄《ふる》わせて、署長に打ってかかろうとした。青
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