れた若き男女を上にあげて、保護とは名ばかりの、辛辣《しんらつ》なる不審訊問《ふしんじんもん》を開始していた。
「お前は鴨下ドクトルの娘やいうが、名はなんというのか」
「カオルと申します」
洋装の女は、年齢《とし》のころ、二十二、三であろうか。断髪をして、ドレスの上には、贅沢な貂《てん》の毛皮のコートを着ていた。すこぶる歯切れのいい東京弁だった。
「それから連れの男。お前は何者や」
「僕は上原山治《うえはらやまじ》といいます」
「上原山治か。そしてこの女との関係はどういう具合になっとるねん」
「フィアンセです」
「ええッ、フィなんとやらいったな。それァ何のこっちゃ」
「フィアンセ――これはフランス語ですが、つまり婚約者です」
「婚約者やいうのんか。なんや、つまり情夫《いろおとこ》のことやな」
「まあ、失礼な。――」と、女は蒼くなって叫んだ。
「まあ、そう怒らんかて、ええやないか。のう娘さん」
「警官だといっても、あまりに失礼だわ。それよか早く父に会わせて下さい。一体何事です。父のうちを、こんなに警官で固めて、なにかあったんですか。それなら早く云って下さい」
署長は金ぶち眼鏡ごしに、ニ
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