年上原は慌《あわ》ててそれを止め、
「――警官たちも、取調べるのが役目なんだろうが、もっと素直に物を云ったらどうです」
「なにをッ――」
 そういっているところに、村松検事の到着が表から知らされた。
 正木署長は席を立って、検事を玄関に迎えに出た。一伍一什《いちぶしじゅう》を報告したあとで、
「――どうも怪しい女ですなア。あの変り者の鴨下ドクトルに娘があるというのも、ちと妙な話ですし、それに娘のところへ二、三日うちに出てこい云うて、二十九日附で手紙を出しておきながら、翌三十日から旅行するちゅうて出かけ、そして今日になってもドクトルは帰ってきよらしまへん。ドクトルが娘に手紙出したちゅうのは、ありゃ嘘ですな」
 と、自信あり気《げ》な口調で、検事に説明をした。検事はそうかそうかと肯《うなず》いた。
 二階に設けた仮調室に現われた検事は、カオルと名のる女をさしまねき、
「貴女は鴨下ドクトルの娘さんだそうだが、たびたびこの家へ来るのかネ」
 と尋ねた。
 カオルは、新しく現われた調べ手に、やや顔を硬ばらせながら、
「いいえ、物心ついて、今夜が初めてなんですのよ」
「ふうむ。それは又どういうわけ
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