の上にポトンと蠅の死骸が一匹、落ちてきた。それはぺちゃんこになった乾枯《ひから》びた家蠅の死骸だった。そして不思議なことに、翅も六本の足も※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》りとられ、そればかりか下腹部が鋭利な刃物でグサリと斜めに切り取られている変な蠅の死骸だった。よくよく見れば、蠅の死骸と分るような、変った蠅の木乃伊《ミイラ》めいたものであった。
この奇怪な蠅の死骸は、果して何を語るのであろうか。
籠城《ろうじょう》準備
――二十四時間以ないニ、ナんじの生命ヲ取ル。ユイ言状を用意シテ置け。――
それだけが、活字の上に赤鉛筆で丸が入れてある。
――蠅男――
この二字だけは、不器用なゴム印の文字であって、インキは赤とも黒とも見えぬ妙な色で捺《お》してあった。
更に、奇怪な翅や脚を※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》りとり、下腹部を半分に切ってある蠅の木乃伊《ミイラ》。――
全く妙な通信文であるが、とにかく脅迫状に違いない。
「お父つぁん。きっと心当りがおますのやろ。隠さんと、うちに聞かせて――」
「阿呆いうな。蠅男――なんて
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