鉛筆で丸を入れてある文字を拾うてお読みやす」
「なに、この赤鉛筆で丸をつけたある字を拾い読みするのんか」
 総一郎は娘にいわれたとおり、上の方から順序を追って、下の方へだんだんと読んでいった。初めは馬鹿にしたような顔をしていたが、読んでいくにつれてだんだん六ヶ敷《むずかし》い顔になって、顔がカーッと赤くなったと思うと、そのうちに反対にサッと顔面から血が引いて蒼くなっていった。
「そら、どうや。お父つぁんかて、やっぱり愕いてでっしゃろ」
「うむ、こら脅迫状や。二十四時間以ないニ、ナんじの生命《いのち》ヲ取ル。ユイ言状を用意シテ置け。蠅男《はえおとこ》。――へえ、蠅男?」
「蠅男いうたら、お父つぁん、一体誰のことをいうとりまんの」
「そ、そんなこと、俺が知っとるもんか。全然知らんわ」
「お父つぁん。その新聞の中に、蠅の死骸が一匹入っとるの見やはった?」
「うえッ、蠅の死骸――そ、そんなもの見やへんがナ」
「そんなら封筒の中を見てちょうだい。はじめはなア、その『蠅男』とサインの下に、その蠅の死骸が貼りつけてあったんやしイ」
 総一郎は封筒を逆《さか》さにふってみた。すると娘の云ったとおり、机
前へ 次へ
全254ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング