た。そして二階の自分の書斎の扉を鍵でガチャリと開けて、中へ入っていった。、そこは十五坪ほどある洋風の広間であり、この主人の好みらしい頗《すこぶ》る金の懸った、それでいて一向|垢《あか》ぬけのしない家具調度で飾りたて、床には剥製《はくせい》の虎の皮が三枚も敷いてあり、長椅子にも、熊だの豹だのの皮が、まるで毛皮屋に行ったように並べてあった。
 玉屋総一郎は、大きな机の前にある別製の廻転椅子の上にドッカと腰を下ろした。そして彼は子供のように、その廻転椅子をギイギイいわせて、左右に身体をゆすぶった。それは彼の癖《くせ》だったのである。
「さあ、その――その手紙、ここへ持っといで」
 彼は呶鳴るようにいうと、娘の糸子は細い袂《たもと》の中から一通の黄色い封筒を取りだして、父親の前にさしだした。
「なんや、こんなもんか。――」
 総一郎は、封の切ってある封筒から、折り畳んだ新聞紙をひっぱり出し、それを拡げた。それは新聞紙を半分に切ったものだった。
「なんや、こんなもの。屑新聞やないか」
 彼は新聞をザッと見て、娘の方につきだした。
「新聞は分ってるけど、只の新聞と違うといいましたやろ。よう御覧。赤
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