病人らしく神妙に横たわって、側の椅子に腰をかけている村松検事に尋ねた。
「うん、――」検事は愛用のマドロスパイプに火を点けるのに急がしかった。「気の毒な最期だったよ。――」
「そうですか。そうでしょうネ、まともに受けちゃたまらない」
生命びろいをした帆村は溜息《ためいき》をついた。
「それで犯人はどうしました」
検事はパイプを咥《くわ》えたまま、浮かぬ顔をして、
「――勿論《もちろん》逃げちゃったよ。なにしろこっちの連中は今まで機関銃にお近付きがなかったものだからネ。あれを喰《く》らって、志田(死んだ警官)は即死し、勇敢をもって鳴る帆村荘六はだらし[#「だらし」に傍点]なく目を廻すしサ。それが向うの思う壺で、いい脅《おど》しになった。だから追い駈けた連中も残念ながらタジタジだ。――そんな風に犯人をいい気持にしてやって、一同お見送りしたという次第だ」
検事は、いつもの帆村の毒唇《どくしん》を真似て、こう説明したものだから、帆村は苦笑いをするばかりだった。もちろんそれは、村松検事が病人の気を引立ててやろうという篤《あつ》い友情から出発していることであった。
「あの犯人は、一体何者です
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