んぜん》が――。
「どうせそんなことだろうと思った。おい帆村君、相変らず、無茶をするねえ」
 と、紳士は呆《あき》れながらも、まあ安心したという調子でいった。
 そのうちに、窓の外から帆村の全身が現われて、ヨロヨロと室内へ滑りおちてきた。
「まあ、帆村さん、貴郎《あなた》ってかたは……」
 と、看護婦が泪《なみだ》を払いつつ、泣き笑いの態で帆村の身体を抱き起した。
「いや大したことはない」と帆村は青い顔に苦笑を浮べていった。「ナニ脳髄に黴《かび》が生えてはたまらんと思ったからネ。ちょっと外へ出て、冷していたんだよ。しかしこの病院の外壁《がいへき》と来たら、手懸《てがか》りになるところがなくて、下りるのに非常に不便にできている。――やあ、これは村松検事どの。貴方がもっと早く来て下されば、なにもこんな瀕死《ひんし》のサーカスをごらんに入れないですんだのですよ」
 看護婦の君岡に抱《かか》えられ再びベッドの上に移されながら、傷つける帆村は息切れの入った減らず口を叩いていた。


   焼屍体《しょうしたい》の素性《すじょう》


「機関銃に撃たれた警官はどうしました」
 帆村はベッドの中に、
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