ていた。
(呀《あ》ッ、そうだ。僕は肩先を機関銃で撃たれて、この病院に担ぎこまれたんだったな)
 彼は大阪住吉区岸姫町の鴨下ドクトルの館で、不意に何者かのために、こんな目にあわされ、そして意気地なくもこんなことになって、附近の病院に担ぎこまれたのだった。
 電灯が室内をうすぼんやり照らしていた。もう夜らしいが、何時だろうかと、腕時計を見ようとしたが、とたんに彼は、飛びあがるような疼痛を肩に感じた。
「呀ッ、痛ッ」
 その叫びに応えるように人の気配がした。手紙でも書くのに夢中になっていたらしい若い看護婦が、愕いて彼の枕頭《まくらもと》に馳《は》せよった。
「お目覚《めざ》めですの。お痛みですか」
 彼は軽く肯《うなず》いて、看護婦に時刻を訊いた。
「――そうですね。いま夜の九時ですわ」
 と、東京弁で彼女は応えた。
「どうでしょう、僕の傷の具合は――」
「たいして御心配も要らないと、先生が仰有《おっしゃ》っていましたわ。でも暫く我慢して、安静にしていらっしゃるようにとのことですわ」
「暫くというと――」
「一週間ほどでございましょう」
「え、一週間? 一週間もこんなところに寝ていたんじゃ
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