さない筈はないと思われる。
 そもこの戦慄《せんりつ》すべき犠牲者は、何処の誰なのであろうか。
「来た来た、あれだッ」
 と、そのとき叫ぶ者があった。
 帆村はハッとしてその方を向いた。
 動物園の入口から、一人の老紳士が警官に護られながらこっちへ歩いてくるのが見えた。それは、さっき伝令の警官から報告のあったように、夜の動物園のなかにうろついていた疑問の人物であろう。
 老紳士はすこし猫背の太った身体の持ち主だった。頭の上にチョコンと小さい中折帽子をいただき、ヨチヨチと歩いてくる。そして毛ぶかい頤鬚《あごひげ》や口髭《くちひげ》をブルブルふるわせながら、低声《こごえ》の皺がれ声で何かブツブツいっていた。どうやら警官の取扱いに憤慨しているらしかった。
「……どうもお前らは分らず屋ばかりじゃのう。早く分る男を出せ。天下に名高い儂《わし》を知らないとは情けないやつじゃ」
 と、老紳士はプンプンしていた。
「おお、あれは鴨下《かもした》ドクトルじゃないか」
 と正木署長は、意外の面持《おももち》だった。
「儂を知らんか、知っとる奴が居るはずやぞ。もっと豪《えら》い人間を出せ」
「おお鴨下ドクト
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