んやろ、奇人ドクトルは……」
 そのとき帆村は横合《よこあい》から声をかけた。
「おおこれは帆村はんだすな。まだ御泊《おとま》りでしたか。えらいところをごらんに入れますわ、ハッハッハッ」
 検事の村松氏に案内されていったとき、知合いになった住吉署の大川巡査部長であった。帆村は邪魔にならぬように、傍《そば》についていた。
 裏口に廻った部下の一人が帰ってきて、二階の西側の鎧窓《よろいまど》に鍵のかかっていないところがあって、そこから中へ這入れると報告をした。大川は悦《よろこ》んで、
「よし、そこから這入《はい》れ、三人外に残して、残り皆で這入るんや。俺も這入ったる」
 巡査部長は、佩剣《はいけん》を左手で握って、裏口へ飛びこんでいった。帆村もそのまま一行の後に続いていった。
 樋を伝わって、屋根にのぼり、グルリと壁づたいに廻ってゆくと、なるほど四尺ほど上に鎧戸の入った窓がポッカリ明いていて、そこから一人の警官がヒョイと顔を出した。
「中は、ひっそり閑《かん》としてまっせ」
「そうか。――油断はでけへんぞ。カーテンの蔭かどこかに隠れていて、ばアというつもりかもしれへん。さあ皆入った。さしあ
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