たり煙突に続いている台所とかストーブとかいう見当《けんとう》を確かめてみい」
 勇敢なる巡査部長は、先頭に立って、腐《くさ》りかかった鎧戸を押して、薄暗い内部にとび下りた。一行は、最初の警官を窓のところに張り番に残して、ソロソロと前進を開始した。
 帆村も丹前の端《はし》を高々と端折《はしょ》って、腕まくりをし、一行の後からついていった。
 たいへん曲りくねって階段や廊下がつづいていた。外から見るような簡単な構造ではない。大小いくつかの部屋があるが、悉《ことごと》く洋間になっていて、日本間らしいものは見当らなかった。
 家の中に入ると、不思議とあの変な臭気は薄れた。そしてそれに代って、ひどく鼻をつくのが消毒剤のクレゾール石鹸液の芳香《ほうこう》だった。
「ここ病院の古手《ふるて》と違うか」
「あほぬかせ。ここの大将が、なんでも洋行を永くしていた医者や云う話や」
「ああそうかそうか。それで鴨下ドクトルちゅうのやな。こんなところに診察室を作っておいて、誰を診《み》るのやろ」
「コラ、ちと静かにせんか」
 巡査部長の一喝《いっかつ》で、若い警官たちはグッと唇を噤《つぐ》んだ。
 いくら跫音《
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