とにかく無人《むじん》であるべき家の煙突から、モクモクと煙が上るというのはどう考えても合点がゆかないことだ。どうしても、中に誰か居て、ストーブに火を点けたのでなければ話が合わない。もし人が居るとしたら、誰が居るのだろう。鴨下ドクトルが出ていった後に、一体誰が残っているというのだろう?
奇人館の怪事を、何と解こうか。
帆村が門前に腕組をして考えこんでいるときだった。丁度《ちょうど》そこへ、街の異変を聞きこんだ所轄《しょかつ》警察署の警官たちが自動車にのって駈けつけてきた。
「さあ、早いとこ、お前はベルを押せ。なにベルがない。探せ探せ。どこかにある筈《はず》や」
と指揮の巡査部長が大童《おおわらわ》の号令ぶりをみせた。
「――それから別に、お前とお前とで、この鉄の門を越えて、玄関の戸を叩いてみい」
声の下に、二名の警官が勇しく鉄の門に蝗《いなご》のように飛びついた。
「さあ、お前ら三名、裏口へ廻れ、一人は連絡やぜ」
部下を四方へ散らばせると、巡査部長は帽子の頤紐《あごひも》をゆるめて、頤に掛けた。そして鼻をクンクン鳴らして、
「うわーッ、こらどうもならん臭さや。なにをしよった
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