さん》な邸宅《ていたく》だった。
 それでも往来に面したところには、赤く錆《さ》びてはいるが鉄柵づくりの門があり、それをとおして石段の上に、重い鉄の扉《ドア》のはまった玄関が見えていた。
「おおあすこに何か貼り札がしてある!」
 その玄関の扉のハンドルに、斜めになって文字をかいた厚紙が懸っているのを帆村は見た。なんと書いてあるのだろう。彼は光線のとおらないところにある掲示を、苦心して読み取った。
 ――当分旅行ニツキ訪問ヲ謝絶《シャゼツ》ス。十一月三十日、鴨下《カモシタ》――
「ウン、鴨下――というか。ここの主人公の名前だな。その主人公は旅行に出かけたという掲示《けいじ》だ。なアんだ。中は留守じゃないか」
 帆村はちょっとガッカリした。
 だが、よく考えてみると、留守は留守でも、それは十一月三十日に出ていったのだから、一昨日《おととい》の出来ごとだった。それだのに、昨夜からずっとこの方、煙突から煙が出ているというのは一体どうしたことだろう?
「鴨下ドクトルが、ストーブの火を燃しつけていったのかしら。しかしそれなら、一昨日の夜も昨日の朝も昼間も、別に煙が出なかったのはどうしたわけだろう」
前へ 次へ
全254ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング