ンをかけた。そして鮮やかなハンドルの切り方でもって、ドンドン走りだした。
長吉は憤慨のあまり、下から石をぶっつけたが、どうしてそんなものが崖の上まで届くものではない。遂に蠅男は口惜しがる帆村と長吉とを谿底《たにぞこ》へ置いて山かげに姿を消してしまった。聞えていた飛行機のプロペラの音も、そのうちに何処ともなく聞えなくなった。
帆村と長吉とは、生命びろいをしたことに気がついた。そこで勇気をつけて、一旦下りた崖を、またエッチラオッチラと上っていった。十分で下りたところが、三十五分も懸ってやっと崖の上に匍いのぼれた。
二人は夕方の山道をトコトコと歩いていった。三十分ほどして、やっと一台のハイヤーが通りかかった。二人の老人の客が乗っていたけれど、無理に頼んでそれに乗せて貰い、蠅男の逃げていった有馬温泉の方角へ進撃していった。
有馬では、警察からまだ何の手配も出ていなかった。手配の電話が懸って来たのは、帆村が大阪への電話を申込んだその後からだった。手配の紙片が、それでも誰かに拾われたことか判った。しかしこうなってはすべてあとの祭りだった。なにしろ手配の自動車は山峡に落ちているのだから。
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