のように奸智《かんち》にたけた奴……」
 と、そこまで云った帆村は、急に言葉を切った。そして長吉の身体をドーンと突くなり、
「おう、危い。自動車のうしろに隠れろッ」
 と早口で命令した。
 その言葉が終るか終らないうちに、ブーンと風を切って落ちてきたのは三貫目の味噌樽だった。二人がもうすこし気がつかないで立っていたとしたら、彼等のどっちかがその恐ろしい勢いで落ちてきた味噌樽のために、頭蓋骨を粉砕されなければならなかったろう。
 味噌樽は、なおも上からピューンと呻《うな》りを生じて落ちてきた。その勢いの猛烈なことといったら、地面に落ちて、地雷火のように泥をはねとばし、壊れ自動車に当っては、鉄板をひきちぎって宙に跳ねあげるという凄い勢いであった。なんという強力なんだろう。見かけは普通の人とあんまり違わぬ背丈でありながら、まるで仁王さまが砲弾なげをするような激しい力を持っているのだった。そのとき何処からともなく、飛行機のプロペラらしい音響が聞えてきた。
 すると、蠅男は可笑しいほど俄《にわか》に周章《あわ》てだした。最後の樽をなげつけてしまった彼は、ひらりと自動三輪車の上にとびのると、エンジ
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