リンリンリンと電話が懸ってきた。駐在所の警官が出た。
「ああ村松検事どのでございますか。はア帆村さんはいらっしゃいます」
 帆村は疲れを忘れて、電話口へ飛びついた。彼は村松検事に、今日の顛末《てんまつ》を手短かにのべて、盗まれた三輪車と蠅男の手配をよく頼んだ。そして電話が切れるとグッタリとして、駐在所の奥の間に匍いこむなり、疲れのあまり死んだようになって睡った。樽の上で踊った長吉もお招伴《しょうばん》をして、帆村の側らにグウグウ鼾《いびき》をかいた。それから何時間経ったか分らないが、帆村は突然揺り起された。
「また村松検事どのから、お電話だっせ」
 帆村は痛む手足のふしぶしを抑えながら、電話口に出た。そのとき彼は、愕《おどろ》きのあまり目の覚めるような知らせを、村松検事から受けとった。
「ええッ、本当ですか。今日の夕刻、鴨下ドクトルが奇人館にひょっくり帰ってきたんですって? ほほう、貴方はもうドクトルが永久に帰ってこないと仰有っていましたのにねエ。ほほう、そうですか。いやそれは僕も愕きましたよ、ほほう」


   蠅男の正体?


 鴨下《かもした》ドクトルが八日目にひょっくり、奇人館
前へ 次へ
全254ページ中125ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング