に、車体が右に一廻転した。下は百メートルほどの山峡だった。何条もってたまるべき、横転した自動車は弾《はず》みをくらって、毬のようにポンポン弾みながら、土煙と共に転げ落ちていった。そして遂に下まで届くと、くしゃと潰れてしまった。帆村は辛うじて制動をかけて、三輪車を道の真中に停めた。
「うわーッ、えらいこっちゃ」
「うむ、天命だな。あんなに転げ落ちてはもう生命はあるまい」
 帆村と長吉とは、車から下りて呆然と崖の底をジッと見下ろした。土煙がだんだん静まって、無慚《むざん》にも破壊した車体が見えてきた。車体は裏返しになり、四つの車輪が宙に藻《も》がいているように見えた。
 暫くジッと見つめていたが、車のなかからは誰も這いだしてこなかった。
「さあ、すぐ下りていってみよう。自動車のなかには、誰が入っているか、そいつを早く調べなきゃならない。長どん、一つ力を貸してくれたまえ」
「大丈夫だすやろか。近づくなり蠅男が飛びだして来やしまへんか」
「いいや大丈夫だろう。死んでいるか、または気絶しているかどっちかだよ。しかし何か得物をもってゆくに越したことはないだろう」
 気がついてみると帆村は腰に一本の
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