念ながら人間の足では競争が出来ない。
何か自動車を追跡できるような乗り物はないか。
そのとき不図《ふと》前方を見ると、路地のところから鼻を出しているのは紛《まぎ》れもなくオートバイだった。これはうまいものがある。帆村は躍りあがってそこへ飛んでいった。
それはオートバイと思いの外《ほか》、自動《オート》三輪車であった。それは大阪方面の或る味噌屋《みそや》の配達用三輪車であって、車の上には小さな樽がまだ四つ五つものっていた。そして丁度そのとき店員が傍の邸の勝手口から届け票を手にしながら往来へでてきたので、帆村は早速その店員のところへ駆けよった。
そこで口早に、車を貸してもらいたいという交渉が始まった。店員は目をパチクリしているばかりだった。なにしろ犯人追跡をやるんだから、ぜひ貸してくれといったが、店員は主人に叱られるからといって承知しなかった。そのうちにも時刻はドンドン経っていく。千載の一遇をここで逃がすことは、とても帆村の耐えられるところでなかった。
(問答は無益だ!)
帆村は咄嗟《とっさ》に決心をした。隙《すき》だらけの店員の顎《あご》を狙って下からドーンとアッパーカットを喰
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