はどうしても怪人の跡を追うのが正道であった。帆村は階段を転げ落ちるようにして、足袋はだしのまま裏口から、自動車の後を追いかけた。
山中の追跡
幸いにも、池谷控家の裏通りは道が狭かったから、自動車はスピードをあげることができないで、タイヤが溝《みぞ》のなかに落ちるのを気にしながらノロノロと動いていた。帆村はそれと見るより、百メートルほど後方から猛烈にダッシュしていった。それが分ったものか、自動車はスピードをすこし早めた。自動車は生垣にゴトンゴトンとつきあたって、今にも幌が裂けそうに見えた。それにも構わず、無理なスピードを懸けていった。
帆村は懸命にヘビーをかけた。もうすこしで自動車のうしろに飛びつける。――と思った刹那《せつな》、自動車はガタンと車体をゆすって頭を右にふった。広い舗道へ出たのだ。
「うぬ、待てエ」
帆村は激しい息切れの下から、ふりしぼるような声で叫んだ。しかしそれは既に遅かった。自動車はわずかのちがいで、舗道に乗った。そして帆村を嘲笑するかのように悠々とスピードをあげて走っていく。
帆村は文字どおり切歯扼腕《せっしやくわん》した。もうこうなっては、残
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