いっても、普通の市民じゃありません」
「普通の市民でないちゅうと、――」
「つまり、これは蠅男が差出した小包なんですよ」
「うむ、な、なるほど」
 一同はいまさらながらに、狂暴な蠅男のやり方に憤慨《ふんがい》の色を示した。


   怪《あや》しき女


「おい帆村君。僕はまた君のおかげで命拾いをした。お礼をいう」
 と、村松検事は、帆村の手を固く握った。
「帆村はん。私もお礼をいわしとくんなはれ」
 と、正木署長もうやうやしく頭を下げた。
 帆村はゆかしくもそれを冗談と受けながし、
「爆弾の危難は助かりましたから、それはいいとして、ここで考えてみなければならぬのは、蠅男がどうしてこんな精巧な爆弾を手に入れたかということです。こんなものは、どこでも作れるというものではありません。僕の考えでは、蠅男はかねてこんな爆弾を用意してあったのだと思います」
「そうだ。そのとおりだろう。蠅男は孤立した殺人魔だ。ギャング組織ではないと思う」
「それなら正木さん」と帆村は署長の方をふりむき、「僕は蠅男が依然として、鴨下ドクトル邸に出入しているのじゃないかと思いますよ。爆弾は、あの邸内のどこかに隠してあるのでしょう」
「そんなこと不可能だすな」と署長は不服であった。「警戒は屋内屋外にあって厳重にしとるのでっせ。そして邸には、ドクトルの遺児カオルはんと許婚《いいなずけ》の山治はんが、無事に暮しとりますんや。もし蠅男が入りこんだのやったら、どこかで誰かが見つける筈だすがな」
「いや、この爆弾を見ては、僕はどうしても蠅男が、ドクトル邸の秘密倉庫なんかに出入しているとしか考えられんです」
「秘密倉庫? そんなものが、どこかに拵《こしら》えてありますのか」
「もちろん僕の想像なんです。なお僕は、この小包を見て考えました。蠅男は、あまり遠くへいっていないということです」
「それはまた、なんです」
「小包の消印を見ましたか。あれは郵便局で押したものではなく、手製の胡魔化《ごまか》しものですよ。だからあの小包を持って来た郵便局の配達夫というのは、恐らく蠅男の変装だったにちがいありません。蠅男に対する監視は厳重なんですから、蠅男がここへ出てくるようでは、その辺に潜伏しているのに違いありません」
「そんなら、この小包を持って本署に来た配達夫が蠅男やったんか。そら、えらいこっちゃ。追跡させんならん」
「署長さん、もう遅いですよ。いまごろ蠅男は、どっかその辺の屋上に逃げついて、そこからこっちの窓を見てニヤッと笑っているでしょう」
「そうか、残念やなア」
 蠅男が近所に潜《ひそ》むという帆村の推理に、村松検事も賛成の意を表した。
 それではというので、すぐさま捜査隊が編成せられて、一行は直ちに鴨下ドクトル邸に向った。
 厳重な捜査の結果、帆村の云ったとおり、はたして秘密倉庫が地下に発見せられた。それは、勝手許の食器棚のうしろに作られていたもので、ボタン一つで、自由にあけたてできるようになっていた。
 一行は、いまさらのように愕いたが、中に入ってみて二度びっくりした。倉庫の中には、まだ五つ六つの爆弾やら、蠅男が使ったらしい工具や材料が一杯入っていた。
「さあ、そういうことになると、蠅男はどないして、ここへ出入したんやろ。そいつを調べなあかん」
 正木署長は俄《にわ》かに奮《ふる》いたって、取調べを始めた。カオルも山治も、蠅男らしい人物がこの家に出入していない旨を誓った。
 警戒中の警官も、同じことを証言した。
 お手伝いさんが一人と、派出婦が一人といるが、お手伝いさんも知らぬと答えた。このお手伝いさんは城の崎の在から来ている人で、先日まで近所の下宿で働いていた身許確実な女だと知れた。
 派出婦は、生憎《あいにく》外出していた。これは身許もハッキリしていなかった。年齢の頃は二十三、四。名前は田鶴子《たずこ》といった。顔は丸顔だという。
「田鶴子――というんだネ」
 この田鶴子なる派出婦は、一行が到着する直前、ちょっと薬屋に買物にゆくといって出ていったそうだが、それがなかなか帰って来なかった。そこで警官の一人を、その薬局へ派遣して調べさせることにした。
 間もなくその警官が帰ってきて、
「近所の薬屋を四、五件調べてみましたんやけれど、どの家でも、そんな女子は来まへんという返事だす。けったいなことですなア」
 帆村はそれを聞くと、ポンと膝を叩いた。
「呀《あ》ッ。わかりましたよ。その田鶴子という派出婦は、もう二度とこの家にかえってきませんよ」
「なぜだい」検事が聞いた。
「いや、その田鶴子という派出婦は、蠅男の情婦のお竜《りゅう》が化けこんでいたに違いありません。蠅男では、到底《とうてい》入りこめないから、そこでお竜が化けこんで、秘密倉庫のなかのものを持ち出していたんです。丸顔
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