の用心棒が駈けつけた。総一郎はすこし生色をとりかえした。
警察への使者には、田辺課長が立った。
彼は新聞紙利用の脅迫状を、蠅の木乃伊《ミイラ》とともに提出し、主人の懇願《こんがん》の筋《すじ》をくりかえして伝えて、保護方《ほごかた》を頼んだ。
署長の正木真之進《まさきしんのしん》は、そのとき丁度、鴨下ドクトル邸へ出かけていたので、留守居の警部補が電話で署長の指揮を仰いだ結果、悪戯《いたずら》にしても、とにかく物騒だというので、二名の警官が派遣されることになった。
すると田辺はペコンと頭を下げ、
「モシ、費用の方は、玉屋の方でなんぼでも出して差支《さしつか》えおまへんのだすが、警官の方をもう三人ほど増しておもらい出来まへんやろか」
というと、警部補はカッと目を剥き、
「阿呆かいな。お上《かみ》を何と思うてるねン」
と、一発どやしつけた。
脅迫状は、一名の刑事が持って、これを鴨下ドクトルの留守宅に屯《たむろ》している署長の許へとどけることになった。
東京からの客
そのころ鴨下ドクトルの留守宅では、屯《たむろ》していた警官隊が、不意に降って湧いたように玄関から訪れた若き男女を上にあげて、保護とは名ばかりの、辛辣《しんらつ》なる不審訊問《ふしんじんもん》を開始していた。
「お前は鴨下ドクトルの娘やいうが、名はなんというのか」
「カオルと申します」
洋装の女は、年齢《とし》のころ、二十二、三であろうか。断髪をして、ドレスの上には、贅沢な貂《てん》の毛皮のコートを着ていた。すこぶる歯切れのいい東京弁だった。
「それから連れの男。お前は何者や」
「僕は上原山治《うえはらやまじ》といいます」
「上原山治か。そしてこの女との関係はどういう具合になっとるねん」
「フィアンセです」
「ええッ、フィなんとやらいったな。それァ何のこっちゃ」
「フィアンセ――これはフランス語ですが、つまり婚約者です」
「婚約者やいうのんか。なんや、つまり情夫《いろおとこ》のことやな」
「まあ、失礼な。――」と、女は蒼くなって叫んだ。
「まあ、そう怒らんかて、ええやないか。のう娘さん」
「警官だといっても、あまりに失礼だわ。それよか早く父に会わせて下さい。一体何事です。父のうちを、こんなに警官で固めて、なにかあったんですか。それなら早く云って下さい」
署長は金ぶち眼鏡ごしに、ニ
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