れア大変なものが見える。大川さん。火床の中に、人骨《じんこつ》らしいものが散らばっていますぜ?」
「ええッ、人骨が――。どこに?」
「ホラ、今燃えている一等大きい石炭の向う側に――。見えるでしょう」
「おお、あれか。なるほど肋骨《ろっこつ》みたいや。これはえらいこっちゃ。いま出して見まっさ」
さすがは場数《ばかず》を踏んだ巡査部長だけあって、口では愕《おどろ》いても、態度はしっかりしたものだ。腰をかがめると、火掻《ひか》き棒《ぼう》で、その肋骨らしいものを火のなかから手前へ掻きだした。
「フーン。これはどう見たって、大人の肋骨や。どうも右の第二|真肋骨《しんろっこつ》らしいナ」
「こんなものがあるようでは、もっとその辺に落ちてやしませんか」
「そうやな。こら、えらいこっちゃ。――おお鎖骨《さこつ》があった。まだあるぜ。――」
大川は灰の中から、人骨をいくつも掘りだした。その数は皆で、五つ六つとなった。
「――もう有りまへんな。こうっと、胸の辺の骨ばかりやが、わりあいに数が少いなア」
と、彼は不審《ふしん》の面持で、なにごとかを考えている様子だった。
それにしても人骨である限り、主人の留守になった建物の中のストーブに、こんなものが入っているとは、なんという愕くべきことだろう。一体この骨の主は、何者だろう。
「あのひどい臭気から推して考えると、もっと骨が見つかるはずですね」と帆村が云った。彼は跼《かが》んで、しばらくストーブの中をいろいろな角度から覗きこんでいたが、ややあって、ひどく愕いたような声をだした。
「呀《あ》ッ。ありましたありました。肋骨が一本、ストーブの煙道《えんどう》のところからブラ下っていますよ。煙道の中が怪しい」
「ナニ煙道の中が……」と、顔色をサッと変えた大川巡査部長は、火掻き棒を右手にグッと握ると、燃えさかる石炭をすこし横に除け、それから下から上に向って火掻き棒をズーッと挿しこみ、力まかせにそこらを掻きまわした。それはすこし乱暴すぎる行いではあったが、たしかに手応《てごた》えはあった。
ガラガラガラという大きな音とともに、煙道の中からドッと下に落ちてきた大きなものがあった。それは、同時に下に吹きだした黒い煤や白い灰に距《へだ》てられて、しばらくは何物とも見分けがたかったけれど、その灰燼《かいじん》がやや鎮《しず》まり、思わずストーブの前か
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