ら飛びのいた警官たちがソロソロ元のように近づいたころには、もう疑いもなく、煙道の中から落ちてきた物件が何物であるかが明瞭《めいりょう》になった。
半焼けの屍体《したい》!
それはずいぶん奇妙な恰好をしていた。半ば骨になった二本の脚が、火床の上にピーンと天井を向いて突立っていた。
それは逆さになって、この煙道の中に入っていたものらしく、胸部や腹部は、もう完全に焼けて、骨と灰とになり、ずっと上の方にあった脚部が、半焼けの状態で、そのまま上から摺《す》り落《お》ちてきたのだった。
男か女か、老人か若者か。――そんなことは、ちょっと見たくらいで判別がつくものではなかった。
「コラ失敗《しも》うた。検事さんから、大きなお眼玉ものやがな。下から突きあげんと、あのまま抛《ほ》っといたらよかったのになア」
と、巡査部長は火掻き棒を握ったまま、大きな溜息《ためいき》をついた。
「もうこうなったら、仕方がありませんよ。それより、今燃えかかっている石炭の火を消して、あの脚をなるべく今のままで保存することにしては如何ですか」
帆村は慰《なぐさ》め半分、いいところを注意した。
「そうだすなア」と大川は膝を叩いて、後をふりかえり、
「オイ、お前ちょっと水を汲んできて、柄杓《ひしゃく》でしずかにこの火を消してんか。大急ぎやぜ」
それから彼は、もう一人の警官に命じて、電話を見つけ、本署に急報するようにいいつけた。
帆村は、そのときソッと其《そ》の場を外《はず》した。部屋を出るとき、ふりかえってみると、大川巡査部長は長椅子の上にドッカと腰うちかけ、帽子を脱いていたが、毬栗頭《いがぐりあたま》からはポッポッポッと、さかんに湯気が上っているのが見えた。
不意打《ふいう》ち
いかに帆村といえども、内心この恐ろしい惨劇《さんげき》について、愕《おどろ》きの目をみはらないではいられなかった。主人|鴨下《かもした》ドクトルの留守中に、ストーブの中で焼かれた半焼屍体《はんしょうしたい》? 一体どうした筋道から、こうした怪事件が起ったかは分らないけれど、とにかくこの家のうちには、もっともっと秘密が伏在《ふくざい》しているのであろう。彼はこの際、できるだけの捜査材料を見つけだして置きたいと思った。
「ほう、これは廊下だ。――向うに化粧室らしいものが見える。よし、あの中を調べてみよう」
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