衛の用心棒になっていた。ところが暁団では田代金兵衛の一億円を越えるという財宝に目をつけて、その手引を昔の縁故で健次に頼んだのだが、彼は拒絶してしまった。それでとうとう江戸昌が命じて刺殺させたのだ』というのだ。この電話の裡《うち》に警察では直ちに手配して、電話を掛けている密告者の逮捕を企《くわだ》てたが、向うもさる者で、僅か二分間で電話を切ってしまった。交番の巡査が駈《かけ》つけたときには、公衆電話函は塔の中のように静かだったという。……どうだ、聴いているかね」
 と帆村は私の前にちょっと立ち停った。私が黙って肯くと、彼はまたのそのそと室内の散歩を始めながら、先を続けた。
「謎の密告者については、戸沢という警視庁きっての不良少年係の名刑事がずばりと断定を下した。それは黄血社《こうけつしゃ》という秘密結社の一味に違いないというのだ。黄血社といえば国際的なギャングで、首領のダムダム珍《ちん》というのが中々の腕利《うできき》であるため、その筋には尻尾《しっぽ》をつかまれないで悪事をやっている。その上不良団をどんどん併合して党勢をぐんぐん拡張している。いまに何か戦慄すべき大事件を起すつもりとしか
前へ 次へ
全37ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング