、同じ金庫を硯う[#「硯う」はママ]黄血社の巣窟《そうくつ》があったんだ。暁団の秘密も一瞬にガス体にするつもりだった。……さあ出よう。もうこんなところには長居は無用だ」
帆村は私を促して外へ出た。
外には鮮かな若葉が、涼しい樹蔭をベンチの上に造っていた。もうすっかり初夏らしい陽気だった。ベンチの上で、帆村は莨《たばこ》に火をつけて、さも甘味そうに喫いだした。
「ところで帆村君、『獏鸚』はどうしたんだネ。一向出て来んじゃないか」
「はッはッ、『獏鸚』は出てこないさ」彼は愉快そうに笑いながら、「その前にあの暗号解読のことを話して置こう。僕がきっとここだというところまで解いて、それで駄目だったのは、あの『あらまそーお』云々を仮名文字のまま引繰《ひっく》りかえしたから失敗したのだ。それで日本式のローマ字に綴って、それを逆さにし綴りなおしてさ、それで漸く解読完了ということになったのだ。なぜそれに気がついたかというとね、言葉の音《おん》というものを逆に聞くと、子音と母音とが離れ離れになり、子音は隣りの母音と結び、母音はまた隣りの子音と結ぶということに気がついたからだ。アラマという音の逆はマラア
前へ
次へ
全37ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング