ねて苦心の末に手に入れた暁団の秘密を整理して当局に提出し、一挙にして暁団を地上から葬ろうという相談だとも云われた。
「一体何処へ隠れてしまったのだろう?」
 巨人金庫の前に詰めていた特別警備隊も、二日、三日と経つと、すこし気がゆるんできた。そして空しく巨億の財産を嚥《の》んでいる大金庫を憎らしく思い出した。
 そのとき、わが友人帆村は、幽霊のようになって、その穴倉の中に入ってきた。――警備員はそれを見るなり皮肉な挨拶をするのであった。
 帆村は黙々として、ポケットからノートを出した。右手をダイヤルに伸べ、左手で電気釦を押しながら、私の差しだす懐中電灯の明りの下で、彼の誘き出した第一、第二等々の解読文字を一つ一つ丹念に試みていった。――しかし今日もまた空《むな》しい努力に終ったのだった。
「いよいよ二三日うちにこの金庫を焼き切ることにしたそうだ……」
 と、そんな噂が耳に入った。その噂だけが今日の皮肉な土産だった。
 家にかえると、帆村は黙々として、また白紙のうえに、鉛筆で文字を模様のように書き続けるのだった。
「どうしたい。ちと憩《やす》んではどうか」
 と私は彼に薦《すす》めた。

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