って、三原玲子が間違えて喋ったという例の台辞を、譫言《うわごと》かなにかのように何遍も何遍もくりかえして呟《つぶや》いた。――暗号といえば「獏鸚」のことなど、すっかり忘れたように見えた。「どうしても、この文句の中に、暗号が隠れていなければならない。こいつはきっと、あの江東のアイス王の巨人金庫を開く鍵でなければならぬ!」
 そういう信念のもとに、帆村は世間のニュースを耳に留めようともせず、只管《ひたすら》にこの暗号解読に熱中した。――その間、江東のアイス王の金庫はいくたびとなく専門家の手で、ダイヤルを廻されたり、構造を調べられたりしたが、大金庫は巨巌のようにびくりともしなかった。
 そのうちにも、暁団の捜査が続けられたが、彼等は天井裏から退散した鼠のように、何処へ潜《ひそ》んだのか皆目行方が知れなかった。
 そうなると得意なのは黄血社の連中だった。
 ダムダム珍は、例の巣窟に党員中の智恵者を集めて、鳩首《きゅうしゅ》協議を重ねていた。秘報によると、それは暁団の不在に乗じて、警戒員の隙を窺《うかが》い、例の金庫から時価一億円に余るという金兵衛の財宝を掠《かす》める相談だとも伝えられ、また予
前へ 次へ
全37ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング