ッ、あの田代がですか」
「ほんとに迂濶《うかつ》だった。失踪したのは、取調べの結果、先月の二十九日、つまり三日前だった。そいつに誰も気がつかなかった……」と口惜しそうだ。
「旅行でもないんでしょうネ」
「どうして、旅行じゃない。表の締りもないしさ、居間も寝室も、それから地下道への入口も開いていて、彼が其処に居なければならない家の中の様子だのに、姿が見えない」
「例の地下にある田代自慢の巨人金庫は如何です」
「ほう、君も巨人金庫のことを知っているんだね」と戸沢刑事はにやりと笑い、「金庫は外見異常なしだ。あの複雑なダイヤルの上にも鉄扉にも、怪しい指紋は残っていない。内部を見たいのだが、暗号が見当らないので弱ってしまう」
「ああ、暗号ですか」と帆村は何気なく聞きかえした。
「あいつは黄血社と暁団とで狙っていたものだ。黄血社はあの金庫の真上にあたる地上に家を建てて、地下道を掘ろうと考えている。……今度とうとう尻尾をつかんでやったがね。しかし金兵衛の失踪は、前の番頭である錨健次殺しと共に、暁団の演出に違いないと思うんだ。……本庁ではいま暁団を追いまわしているんだが、敏捷な奴で、団長の江戸昌をはじ
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