「じゃ、何が入っているんだろう?……金兵衛の屍体かな?」
「そうかも知れない」
× × ×
巨人金庫の口は、遂に開いた。
帆村の解読した暗号は一字も間違いがなかったのである。
金庫の中には財宝は一つも残っていなかった。そして中には、実に私たちの予想だにしないものが入っていた。何?
それは瓲《トン》数で云って、三瓲あまりの大爆薬が入っていた。この思い懸《が》けない遺留品には、金庫を覗《のぞ》きこんだ係官たちも、「呀ッ」といって一斉に出口に逃げだしたほどだった。――いい塩梅に精巧なクロノメーター式の導火装置は、帆村と私の手で取除くことができた。だが爆発までに余すところはたった三時間だったのである。もしも帆村の解読が三時間遅れていたとしたらどうなったであろうか。江戸昌はひどいことをする。
「この大爆発を仕懸《しか》けて、江戸昌はどうするつもりだったろう」と私は帆村に訊ねた。
「これが江戸昌の恐るべき智恵なんだよ。彼は財宝だけでは慊《あきた》らず、その上この巨人金庫を爆発させて黄血社の幹部連を皆殺しにするつもりだったのだ。ね、判るだろう。この金庫の上には、同じ金庫を硯う[#「硯う」はママ]黄血社の巣窟《そうくつ》があったんだ。暁団の秘密も一瞬にガス体にするつもりだった。……さあ出よう。もうこんなところには長居は無用だ」
帆村は私を促して外へ出た。
外には鮮かな若葉が、涼しい樹蔭をベンチの上に造っていた。もうすっかり初夏らしい陽気だった。ベンチの上で、帆村は莨《たばこ》に火をつけて、さも甘味そうに喫いだした。
「ところで帆村君、『獏鸚』はどうしたんだネ。一向出て来んじゃないか」
「はッはッ、『獏鸚』は出てこないさ」彼は愉快そうに笑いながら、「その前にあの暗号解読のことを話して置こう。僕がきっとここだというところまで解いて、それで駄目だったのは、あの『あらまそーお』云々を仮名文字のまま引繰《ひっく》りかえしたから失敗したのだ。それで日本式のローマ字に綴って、それを逆さにし綴りなおしてさ、それで漸く解読完了ということになったのだ。なぜそれに気がついたかというとね、言葉の音《おん》というものを逆に聞くと、子音と母音とが離れ離れになり、子音は隣りの母音と結び、母音はまた隣りの子音と結ぶということに気がついたからだ。アラマという音の逆はマラア
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