も言ったとおり、これを直ぐ開けたんでは、動物が皆|斃死《へいし》してしまいます」
「しかし人間の生命には代えることは出来ません」
「なに人間の生命? はッはッ、君は此のタンクの中に、三日前に行方不明になった園長が隠されているのだと思っているのですね」
「そうです。園長はそのタンクの中に入っているのです!」
 帆村はグンと癪にさわった揚句《あげく》(それは彼の悪い癖だった)大変なことを口走ってしまった。それは前から多少疑いを掛けていたものの、まだ断定すべきほどの充分な条件が集っていなかったのだ。怒鳴《どな》ったあとで大いに後悔《こうかい》はしたものの、不思議に怒鳴ったあとの清々《すがすが》しさはなかった。
「君は僕を侮辱《ぶじょく》するのですね」
「そんなことは今考えていません。それよりも一分間でも早く、このタンクを開いていただきたいのです」
「よろしい、開けましょう」断乎として鴨田が思切《おもいき》ったことを云った。「しかし若《も》しもこのタンクの中に園長が入っていなかったら君は僕に何を償《つぐな》います」
「御意《ぎょい》のままに何なりと、トシ子さんとあなたの結婚式に一世《いっせ》一
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