て行った帆村探偵は、そこに鴨田氏が背後《うしろ》向きになり、ビーカーに入った茶褐色《ちゃかっしょく》の液体をパチャパチャ掻《か》き廻しているのを発見した。外には誰も居なかった。
帆村の跫音《あしおと》に気がついたらしく、鴨田は静かにビーカーを振る手をちょっと停《とど》めたが、別に背後を振返りもせず、横に身体を動かすと、硬質陶器《こうしつとうき》でこしらえた立派な流し場へ、サッと液体を滾《こぼ》した。すると真白な烟《けむり》が濛々《もうもう》と立昇《たちのぼ》った。どうやら強酸性《きょうさんせい》の劇薬らしい。なにをやっているのだろう。
「鴨田さん、またお邪魔《じゃま》に伺《うかが》いました」帆村はぶっきら棒に云った。
「やあ!」と鴨田は愛想よく首だけ帆村の方へ向いて「まだお話があるのですか」とニヤニヤ笑い乍《なが》ら、水道の水でビーカーの底を洗った。
「先刻《さっき》の御返事をしに参りました」
「先刻の返事とは?」
「そうです」と帆村は三つの大きな細長いタンクを指《さ》して云った。「このタンクを直ぐに開いていただきたいのです」
「そりゃ君」と鴨田はキッとした顔になって応えた。「さっき
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