!」
 帆村は一本の煙草をつまむと、火を点けて歎息《たんそく》した。
「一体、何が残っているだろう」
 最初から一つ一つ思いかえしてゆく裡《うち》に、特に気のついたことが二つあった。一つは園長がいつも呑み仲間としてブラリと訪ねて行った古き戦友|半崎甲平《はんざきこうへい》に会うことだった。そうすれば、まだ知られていない園長の半面生活が曝露《ばくろ》するかも知れない。もう一つはどうしても事件に関係があるらしい爬虫館を、徹底的に捜索しなおすことだった。ことに開けると爬虫たちの生命を脅《おびやか》すことになるという話のあった鴨田研究員苦心の三本のタンクみたいなものも、此際《このさい》どうしても開けてみなければ済《す》まされなかった。あのタンクは、故意か偶然か、人間一匹を隠すには充分な大きさをしているのだった。
 そんな結論を生んでゆく裡に、帆村の全身にはだんだんに反抗的な元気が湧き上ってきたのだった。
「須永《すなが》を呼ぼう」
 彼は公衆電話に入って帆村探偵局の須永助手を呼び出すと直《す》ぐに動物園へ来るように命じた。


     5


 爬虫館の鴨田研究室の裡《うち》へツカツカと入っ
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