性格を知るために、室内を隅から隅まで見廻して、何か怪《あや》しい物はないかと探し求めた。
「鴨田さんの鞄ですか、これは」と帆村は棚の上に載っている黒皮の書類鞄を指した。
「そうです、私のです」
「随分大きいですね」
「私達は動物のスケッチを入れるので、こんな特製のものじゃないと間に合わないのです」
「こっちの方に、同じような形をした大きなタンクみたいなものが三つも横になっていますが、これは何ですか」
「それは私の学位論文に使った装置なんです。いまは使っていませんので、空《から》も同様です」
「前は何が入っていたのですか」
「いろいろな目的に使いますが、ヘビが風邪《かぜ》をひいたときには、此《こ》の中に入れて蒸気で蒸《む》してやったりします」
「それにしては、何だか液体でも入っていそうなタンクですね」
「ときには湯を入れたりすることもあります」
「だが蟒の呼吸《いき》ぬけもないし、それに厳重《げんじゅう》な錠《じょう》がかかっていますね」
「これは兎《と》に角《かく》、論文通過まで、内部を見せたくない装置なんです」
「論文の標題《ひょうだい》は?」
「ニシキヘビの内分泌腺《ないぶんぴせん
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