鴨田研究員の関係していることは否《いな》めなかった。
「ああ、西郷君」そう云ったのは鴨田理学士だった。「一昨日この爬虫館の前で拾得《しゅうとく》したので僕が事務所へ届けて置いた万年筆ね、あれは先刻警官の方が調べられて、園長さんのものだと判ったそうですよ」
「ああ、そう」西郷副園長は簡単に応《こた》えたが、其の後でチラリと帆村の方に素早《すばや》い視線を送った。
 帆村は知らぬ風をして、この会話の底に流れる秘密について考えた。館の前で園長の持ち物を拾ったということは、場合によっては決して鴨田氏の利益ではなかった。万年筆はよく落すものではあるが、そんなに具合よく館の入口に落すものではない。また物静かな園長が落すというのも可怪《おか》しい。鴨田が後に怪《あやし》まれることを勘定《かんじょう》に入れて落して行ったか、さもなくて鴨田が自《みずか》ら落ちていたと偽《いつわ》り届けたものか、どっちかである。始めのようだと鴨田を陥《おとしい》れようとしているのは誰かという問題となり、後のようだと鴨田は自ら嫌疑《けんぎ》をうけようとするもので、そこには容易ならぬ犯罪性を発見することになって、帆村は鴨田の
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